重力とは、愛だ。
宇宙の果てまでも引き合い、星をつくり、熱と光のみなもととなる。重力は全てを統べ、重力は全てを見つけ、重力は全てを捕らえて、暗闇の中に繋ぎとめる。
われわれ意識あるものを引きさらうこの力は、いちいち指摘するのもはばかられるほどに、われわれを捉える機会をうかがい、そこかしこで不可視の腕を伸ばしている。どうかすると、逃げ場などはないようにもみえる。
重力は強大だ。それでいて不可欠なものでもある。重力がなければ、われわれは生きていけないし、大地に立つこともできない。
しかし、生《き》の重力では強すぎるというものたちがいる。軋み声をあげるひとがある。このままでは一点にまで潰れ去ってしまうというものも、きっとわたしたちだけでないはずと信じたのだ。かの力に、真正面から太刀打ちできるなどとは、ましてや独力で抵抗しようなどとは、無論、だれも考えてはいなかった。そうして、今ここに反-重力連盟という連帯が成立したのである。
ほんの少し、ごく僅かだけでも、この重力を緩めたい。そのための企てがわれわれである。
いつか重力によって奪われたものを取り戻す。そのための暗躍がわれわれである。
きたる真に無重力的な日の約束。そのためのあらゆる備えがわれわれである。
重力の衰えるとき、われわれは少し軽くなる。
具体的には以下の効能が期待されている:肩凝り・腰痛・不眠の解消、摩天楼の垂直登攀、巨大戦艦の謎飛空、惑星輪の形成撹乱、社会的・生物的な制約からの開放、死後、宇宙幽霊に変じての深宇宙旅行など。
重力に抵抗する、方法。われわれはその在り処を知っている。この宇宙で、もっとも重力の弱い領域である頭蓋のなかは、しかし皮肉にも各種の重力によって閉じられている。そして頭のなかのものをそのまま取り出したとして、ただちに重力に従い、自由落下するのが関の山だ。
だからこれは、あるいは敗北の記ともなる。それでも、われわれは試みなければならない。
全ては心の中だった。それでよかった。今までは。もはやわれわれは妄想の無重力に留まることはできない。重力の支配する場所で、交渉し、妥協点を探っていかなければならない。媒体は何でもよかった。頭の中から重力の世界へと漏れ出して、紙の上に定着し、束の間維持される空隙。圏外となる領域。
武器となるのは、空転する想像と、星を見上げる視線、それと向こう見ずな愚かしさだけ。目論みの進行につれて、やがて星々は、頭蓋たちは端からゆるゆると砕け散っていくだろう。そこから、新しい無重力が流れ出すだろう。ほんの少し、ごく僅かだけでも。そのためのささやかな試みが、いまあなたの手に収まっている。重力圏外への、これはまあ、お誘いの手紙でもある。
なぜだか勇気づけられたわれわれは、敗北の宣言にかえて、この言葉をあなたに贈りたい。
Sit tibi terra levis. どうか大地/地球が、あなたにとって軽くありますように。
追伸:わたしたち反-重力連盟は、情熱とやる気に満ちあふれた反重力工作員を募集しています! 職業、年齢、生物種、構成物質不問! ご連絡はお近くの反-重力連盟員まで。みなさまのご応募をお待ちしております。